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乳母車

 まさか自分が毎日公園で日向ぼっこや日光浴、なんて事になるとは考えてもみなかった。働かなくても生きていける、って意味では良い人生なんだけど、する事ない、ってのは少し寂しいなあ、などと考えながら、今日も家から歩いて7分で行ける昼下がりの公園の指定席でする事も無く… 「すみません~」 そんな時声をかけてきたのが30代? くらいの男性。若い。ブルーのポロシャツと白いコットンパンツで、休日のヤングサラリーマンって感じ。 ああ、さっき少し離れたベンチにいた夫婦のカタワレかな? 乳母車、今のベビーカーとは違うケッコウ大きい籐で編んだカゴが乗っかってるクラシカルなタイプの乳母車を前後に揺らしていたから兄妹とかではないと思う。見るとはなしに見ていたら、奥さん、と思われる女性は手を振ってベンチを離れたのが20分くらい前。今旦那さんと思われる男性が乳母車を押して私の座るベンチにやって来て声をかけてきた。「すみませ~ん。妻が用事で、まだ戻っては来ないんですが、ちょっとトイレに行きたくなっちゃって。 その間、見ててくれませんか? あ、寝てますからホント見てるだけで」 そんな事なら、と思い公園の隅に小さく見える公衆トイレをちらと見て、いいですよ、行ってらっしゃい、と答えた。乳母車には紫外線避け? 黒い、少し厚手の日よけホロが下りていて子供の姿は見えない。小走りに走り去る男性の背中を見、乳母車に視線を移す。軽く揺らそうか? と考えたけど、ヘタな事してオコシちゃったらタイヘン、などと考え直して乳母車には触れなかった。ホントウに見てるだけ。トイレなら5分もかからないで… 帰って… 来るハズ… … ? 
 チラと不安が走る。 …あれから15分は経った。 名前くらい聞いておけば… あ! でも大の方なら、まだまだ、そーだ、私なんか30分近く… そーだ。まだまだ、時間はカカル、カカッテも不思議では… … 
 なんて言って、もう40分だ。なんか変だ。あの男、確かにトイレに入ったか? 入ったところを見ていない。子供はまだ静かだからいいけど、もうそろそろ… 意を決してベンチから立ち上がり、乳母車をそっと押しながらトイレの方へ歩き出す。男性側は小便器が2つ、個室が1つ、のはず。昔と違って今風で明るく、清潔そうなトイレ。ちょうど出てきた小学生くらいの男の子に聞く。「あ、ごめんね。中に青いシャツの男の人いたかな?」 男の子はもう一度中に入って見てくれて「だれもいないよ」 個室も? と聞き返しても「うん」と言って走り去ってしまった。 …別のトイレに行った、と、無理やり考えて、ゆっくりと乳母車を押し、先ほどまで座っていたベンチに戻る。
 日が傾く。明らかにおかしい。変だ。男はもどってこない。女も… これからの事を考える。警察に、一番近くの交番は… 男の人相と服装、女の方は遠くからしか見ていないから、確か肩を超える長髪と白っぽいスカート? 顔はわからない。 …そういえば、この子供、赤ん坊… もう4時間近くなるのに… 起きない? 目覚めない? そんな事があるのか? 改めて乳母車をよく見る。 …こんなに古いモノだった? 車輪のサビは、こんなに? 付いてた? 黒い日よけのホロ、よく見るとうっすらと埃が… そんな、事が… 押手のハンドルを握り、動かそうと… ギ! ギィギギギィギィギィ… すごい音が… これは… これは… あ! 乳母車の中で子供? が動いた? 少し前から重低音の振動音が繰り返し響いているのは… 私の鼓動? 心臓? ナニカが動いた… 乳母車の中… … ナニカが動いて、 …止まった。
 午後遅く、陽は沈み、公園に人はいない。あと少しで今日が終わる、そんな時間。 あのベンチに近づく足音が2つ。「ああ、お待たせしてしまいました」黒い影のひとつが詫びる。後方の影が言葉を重ねる。「すみませんでした。私が遅くなってしまって… 」 ベンチに座っていた影が応える。「いえいえ、たいしたことではありませんでした」 最初の影が「では、いきましょうか?」 乳母車に手を添えた後ろの影が「いきましょう」 ベンチから立ち上がった影が「では、御一緒させて、もらいますかな」乳母車を押す影をまんなかに3つの影が音もなく公園から消える。誰もいない公園から… 20180430
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