2019/06/28

確変

　スライムって言うの？　あのネチョネチョの不定形な玩具。その人は明るいベージュ色のこんもりとしたスライム状になって横たわっていてその山のてっぺんに顔があって「あああ、ラクよぉ～　これはぁ、いいわぁ～　腰の痛いのも外反母趾も消えて…　」　ああ、そうなんだ。ほんと楽そう。昼下がりの住宅街。辺りは静か。他に人はいない、っていってもこのスライムおばさんみたいにもう人間のカタチを残していなければわからないけどね。昨日会ったオッサンは黒縁眼鏡をかけたベージュの立方体、ああ。そーいや人は結構ムカシの肌の色をひきずるんだなあ。鮮やかな緑の人とか、ムラサキな人ってあんまり見ない。こーゆーのも保守性が高い、っていうんだろうか？　その形状、姿かたちは、もうトンデモナイものになってるんだけど。最初こそ、美男美女的な変形をほぼ全員が望んでいたみたいなんだけど、だんだんめんどくさくなって、で、今みたいに…　三角錐や球形、モノリスみたいな石板形？　そーゆーのが多くなっていった。形を維持するのが楽みたい。　え？　で、私はどんな格好を？　って聞く？　見ればわかるでしょ、ムカシながらなのヒトのカタチ、のまま。　…そう、1週間前から突然始まったこの「変身現象」から置いてきぼりを食った数少ない人間。急激に変わってゆくこの世界から取り残された存在。けど、まあ、いいのさ。私達のような不適応者はタブン、人類のバックアップデータだと思う。この試みが失敗したら次の機会は私達に、何百年先かはわからないけどね。誰の試みかも、わかんないけどね。20190617+